事業紹介
深紫外先端増強ラマン顕微鏡の開発
先端増強ラマン散乱 (TERS: Tip enhanced Raman scattering) 顕微鏡は、これまでは近赤外あるいは可視のレーザーを励起光源として用いてきた。これはラマン散乱と蛍光を分離すること、および、比較的安価なレーザーや検出器、光学素子が使えたことによる[1]。しかし、半導体の歪み分布測定や生体分子特にDNA塩基や蛋白分子をラマン計測するためには深紫外のTERS顕微鏡開発が求められる。われわれは世界に先駆けこのテーマに挑戦し、深紫外共鳴ラマン散乱を原理とする深紫外TERS顕微鏡の開発に取り組んでいる。光源、検出器、光学素子はもとより、プラズモニックなプローブの材料選択とプローブ作製技術開発に取り組んでいる[2,3]。とくに深紫外光の生体分子に対するフォトダメージを原理的に軽減する方法を提案し、実際の実験結果を示した[4]。
本研究はJSTの先端計測分析開発事業によって支援されている。共同研究機関はナノフォトン株式会社および大阪大学。
[1] A. Palonpon et. al., Nat. Protoc. 8, 677 (2013).
[2] A. Taguchi et. al., J. Raman Spectrosc. 40, 1324 (2009) ; A. Taguchi et. al., Nanoscale 7, 17424 (2015).
[3] Y. Kumamoto et. al., ACS Photonics 1, 598 (2014).
[4] Y. Kumamoto et. al., Biomed. Opt. Express 7, 158 (2016).
金属ナノ粒子による細胞内分子イメージング
河田研は、これまで金属プローブ先端に局在する表面プラズモンポラリトンを使って、光の波長の数十分の一の光ナノスポットを走査することによる近接場顕微鏡を世界に先駆けて開発してきた[1-3]。特に分子からのラマン散乱光を検出し分子イメージングを行う、先端増強ラマン散乱(TERS:Tip Enhanced Raman scattering)顕微鏡は、その応用範囲の広さから広く活用されている[2]。しかしながら、TERS顕微鏡は試料表面の分子しか観察・分析することができず、細胞内の分子マッピングに使うことができなかった。本プロジェクトでは、金属ナノ微粒子を細胞内に取り込ませ、3次元の細胞内分子イメージングすることを目的としている[4]。また、分子イメージングにとどまることなく、細胞内の環境のイメージングにも取り組んでいる。
本プロジェクトは日本学術振興協会・科学研究費助成事業・特別推進研究によって支援されている。共同研究機関は大阪大学および東京大学。
[1] Y. Inouye and S. Kawata, Opt. Lett. 19, 159 (1994).
[2] S. Kawata et. al., Nat. Photon. 3, 388 (2009).
[3] S. Kawata et. al., Chem. Rev. 117, 4983 (2017).
[4] J. Ando et. al., Nano Lett. 11, 5344 (2012).